とれじゃーはんたーず! 第2話 無限回廊 1回目 ―白い扉は危険でいっぱい―

 ここは街外れにある酒場「ドラゴン」。
 表に掲げられた大きな竜の看板が目印の、大衆向けの店だ。
 質素な内装で料理も酒も特別に美味しいというわけでもないのだが、とにかく量が多くて安いので、肉体労働をしている男たちを中心に人気がある。
 とはいえ、店が賑わうのは仕事帰りの夕暮れから深夜にかけてであり、開店してすぐの時間帯――昼過ぎ頃には客がほとんどいない。
 古ぼけた木のテーブルと椅子が乱雑に置かれた店内には、カウンターの奥でグラスを拭いている店主の他には、幼い少女が二人だけ。
 彼女たちは丸いテーブルを挟んで向かい合い、食事をしながら小声で何か話していた。

安酒場で話す二人
ユーナ「……でね、今月は依頼が全然無いし、クエストも良いのがなくって、本当に貯金が底をつきそうなの。……ってサキちゃん、ちゃんと聞いてる!?」
サキ「もぐもぐ。ちゃんと聞いてるよ。でもさ、依頼もクエストも無いんじゃ、どうしようもないよね。もぐもぐ」

 あと1,2時間も経つと筋肉質の男たちが大挙して押し寄せ、酒を飲んで大声で騒ぐため話をするどころではなくなる。
 なので、二人にとってこの時間帯は、食事したり話をするのにちょうど良かった。


サキ「うーん、こうなったらアレに手を出すしかないねぇ」
ユーナ「アレ……って?」
サキ「……水商売」
ユーナ「ええっ!?私たちの歳じゃ無理だよぅ!そ、それに私、男の人に色目使ったり、誘惑したりとか、その、あんまり得意じゃないし……」
サキ「あっはっは!慌て過ぎよ。……ま、あたしたちじゃ確かにその手の商売は無理ね」
ユーナ「そうかな?サキちゃんの大きな胸をもってすれば、男の人なんてイチコロだと思うけど」
サキ「何それ……ま、冗談はこのぐらいにして。アレって言ったらアレでしょ、『無限回廊』」

無限の回廊
 無限回廊とは、この街のトレジャーハンターなら誰でも知っている噂だ。

 “回廊と中庭、そして無数に連なる部屋で構成された遺跡。一つ一つの部屋に広大な空間を魔法で圧縮しており、それぞれが別世界に繋がっていると言っても過言ではない。遺跡の中には非常に珍しい品が多くあり、いくら持ち出しても尽きることがない――”

 挑戦して財宝を持ち帰ったと主張する人はいるにはいるが、語る人によって遺跡の場所も中の様子もコロコロ変わるので信憑性は全くなく、ギルドのクエスト掲示板にももちろん載っていない。
 金欠に陥ると冗談半分で、「アレ、やらねぇか?」という感じで多くのハンターが口にする。しかし、実際に挑戦する人はほとんどいないという、いわくつきのクエストだった。


ユーナ「うぅ……あんまり変なクエストには挑戦したくないんだけど……背に腹は代えられないし……行くだけ行ってみようかな……」
サキ「じゃあ、明日の朝に出発ね。もぐもぐ」
ユーナ「……サキちゃん、お肉はそのお皿に載ってるので最後にしてね」
サキ「えええっ!こんだけ!?そんなぁ〜〜〜」

早朝の丘にて
 翌朝、見通しの良いなだらかな丘の上に、冒険の準備を整えた二人は立っていた。
 都市伝説みたいな胡散臭いクエストだが、「無限回廊」の場所だけはある程度伝わっている。この丘陵地帯のどこかに、その入り口はあるはずだった。

サキ「結構見通しはいいはずなんだけど、それらしいものは見当たらないね」
ユーナ「うぅ〜ん、無限回廊っていうぐらいだから、立派な建物か何かがあると思うんだけどなぁ」

 ぐるりと周囲を見渡した後で、二人は特にあてもなく適当な方向に歩き始めたのだった。

無限の回廊
 そして二時間が過ぎた……。

サキ「なによ、何にも無いじゃない。ガセだったってワケ!?」
ユーナ「今まで見つかった人工物って、あの廃墟だけだけど……まさか、ね」

 その廃墟というのは、扉以外の構造物は既に跡形も無く、建物の体もなしてないようなものだった。
 ここが「無限回廊」とは、とても思えないのだが……。

サキ「念のため、扉をくぐるだけくぐってみようか」
ユーナ「うん」

 二人が両開きの大きな扉を押し開け一歩向こうに踏み込むと、唐突に目の前の草原が消失し、代わりに大きな部屋が出現した。

二人「……っ!!!」

 慌てて同時に後ろを振り返る。扉は変わらずそこにあり、その向こうにはさっきまでいた草原が見えた。

ユーナ「空間転移!?」
サキ「ユーナ、くさびを出して!」
ユーナ「わ、分かった!」

 ユーナが慌てて荷物からくさびとハンマーを取り出し、サキと一緒に開いた扉と床の隙間に打ち込む。何かの拍子で扉が閉じて、元の場所に戻れなくなってしまうのを防ぐためだ。

無限の回廊

 真っ白でどこか無機的な部屋の中を見渡すと、対面の壁に三つのドアがあった。

サキ「どれかに入れ……ってことなのかな?」
ユーナ「どれも趣味悪いなぁ……」

 一番左のドアは黒色だった。黒というよりは、全ての色をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたような汚い色だ。
 真ん中のドアはピンク色。ピンクといっても色々あるが、目に痛いショッキングピンクで余りにも鮮やか過ぎる。
 右のドアは白色。汚れ一つ無いその白は、清潔すぎて周囲から完全に浮いていた。

サキ「ここで立ち止まっていても始まらないし、入ろうか」
ユーナ「……待って、ここから先は何が起こるか分からない。今なら引き返せるよ」
サキ「せめて中を見てから考えない?情報だけでも高く売れるわよ」
ユーナ「う〜ん……すごく悪い予感がするけど、ドアを開けるだけならいいかな……で、まずどれにするの?」
サキ「そうねぇ……」

 調査が目的ならドアは全部開けることになるので、適当に決めることにする。
 サキが選んだのは……白いドアだった。

サキ「これが一番綺麗だし」
ユーナ「綺麗すぎるのも不安だけどね……」

白い砂漠と透明の砂
 サキが白いドアを開けたとたん、今度はドアそのものが消失した。
 同時に周囲の状況が一変する。
 真っ白い地面と真っ白い空、見渡す限りえんえんと似たような景色が唐突に現れた。
 地面が平坦な床から波打つ砂地に急に変わり、二人は一瞬足を取られる。

サキ「あちゃあ、最悪」
ユーナ「戻れなくなっちゃったよ〜」

 再び空間転移することは予想の範囲内だったが、元の空間との繋がりが絶たれてしまうとは考えていなかったようだ。
 戻れなくなったのは痛いが、幼いとはいえ何度も危険をかいくぐってきたトレジャーハンターだ。二人はすぐに意識を切り替えると、状況を確認するために足元の砂を手にとってみる。

ユーナ「透明だ……」
サキ「あら、綺麗」

 大量にあったから白く見えていたのだが、砂粒は透明で、光を反射してキラキラと美しく輝いている。
 水晶を砕いたような尖った形をした砂粒は普通ではないが、砂地を歩くのに支障は無さそうだ。

サキ「とりあえず瓶に詰めておこうか」
ユーナ「高く売れるといいね♪」

 周囲の安全を確認して余裕が出てきた二人は、いそいそと小瓶に砂を詰める。

 ……ここで、財宝について少し補足しておこう。
 財宝とは、誰でも価値が分かる金や宝石とは限らない。要は金持ち連中に高く売れればいいわけで、失われた技術や発見、歴史的に重要な遺物、魔法や魔力に関連する物品なども財宝と呼ばれている。
 この瓶詰めの砂だって、異世界由来の珍しい品だ。ギルドに戻って競売にかけると高く売れる可能性がある。

サキ「さてと、どうしようかな。ドアとか扉は取りあえず見当たらないわね」
ユーナ「私、魔法で周囲を探ってみるね」
サキ「うん、お願い」

ユーナの魔法
 ユーナが杖の宝玉に魔力を込める。「物見」と呼ばれる光の魔法の一種で、遠くの景色を宝玉の中に映し出すことができる。
 宝玉の中に、三方の景色がぼんやりと映し出された。

ユーナ「あっちには、何か大きな流れが見える……川?流砂?」
ユーナ「あっちには、何か影が見える。建物?それとも遺跡かも?」
ユーナ「あっちには……煙ってて何も見えない。雲?もしかしたら砂嵐だったり?」

サキ「ありがと。さて、どっちに向かう?」
ユーナ「んーっと……じゃあ、影が見える方で」
サキ「そうね、影が見えるということは、少なくとも何かあるということだし、いいかもね」


 二人は透明な砂をしゃくしゃくと踏みながら、影が見える方へと向かった。
 小一時間ほど歩くと、影の正体が見えてきた。

ユーナ「オブジェ……かな?」
サキ「危険は無いみたいね。近づいてみましょ」

 透明な岩を塔状に積み上げただけのものだが、自然に出来たものではなく、何らかの意志で作られていることは明らかだった。
 とはいえ、付近には人間や、知的な生物も見当たらない。

サキ「誰かいないの〜〜〜っ!!」

 サキが声を張り上げるが、聞えてくるのはさらさらと砂が流れる音だけ……

負けたら脱いでもらいます
???「なんですかー?」

 ……ではなかったようだ。年配の男性の声で返事があった。
 透明な岩に立っていた彼は……とても奇妙な風貌をしていた。
 いかにも間抜けな目、開きっぱなしの口。頭髪は無く、正直に言うと……とてもアホっぽい。

サキ「(何アレ……正直話したくないんだけど……)」
ユーナ「(私も……でも、他に誰もいないみたいだし、仕方ないよ)」

 二人は小声で話しながら、用心深く男に近寄る。

サキ「あの、私達唐突にここに飛ばされて、帰る方法を探してるんだけど……何か知らない?」
???「ふぉふぉふぉ、ここに来るのは皆そんな人ばっかりです」
ユーナ「そうなんだ……」
???「私の名は『ヌケ・サーク』。少女たちよ、その方法を知りたくば……私と勝負するのです!」
サキ「(ぷぷっ…ぬけ…さく…ってそのまんまじゃんw)し、勝負の内容は?」
ユーナ「(サキちゃん、失礼だよ、ぷぷぷww)」
ヌケ・サーク「勝負の内容は“丁半”。私がサイコロを振りますので、丁−偶数 か 半−奇数 かに賭けてもらいます。当たれば戻る方法を教えましょう。でも、外れたなら……」
サキ「外れたなら……?」
ヌケ・サーク「お二人のどちらかに、一枚脱いでもらいます!!」
ユーナ「えぇ〜!?」
ヌケ・サーク「一枚脱いでもらいます!!!!!」
サキ「いや2回言わなくてもわかったから」
ヌケ・サーク「重要なことなので2回言いました!」
サキ「(やっぱアホだこいつ)」
ユーナ「うぅぅ、何でこんな展開に……」
サキ「どうせ読者サービスでしょ。いいわ、最初は私が受けて立つわ」
ヌケ・サーク「うひひ。では……丁か半か?」
サキ「そうねぇ……じゃあ“半”で」
ヌケ・サーク「ではではサイコロ振りますよっと、コロコロコロ……1と、2で“丁” 私の勝ちですな!」
サキ「あらま」
ユーナ「きゃぁぁぁ!」

サキの胸
サキ「じゃあ上を脱ぐわね。……これでいい?」

 サキはあっさりとジャケットを脱いで、タンクトップをたくし上げた。

ユーナ「サキちゃん!そんなにあっさり脱いじゃだめぇ!」
ヌケ・サーク「ほう!まだ幼いのに、なんてけしからん胸!どれどれちょっと触らせて……」
ユーナ「触っちゃダメぇぇぇぇぇ!」
ヌケ・サーク「ほぅほぅ、ブラも可愛いの付けてますなぁ」
サキ「私はサラシでもいいかなって思ってるんだけど、ユーナがブラつけろって、お金も無いのに可愛いの買ってくるのよね」
ユーナ「サラシなんかで締め付けてたら、折角の綺麗な胸の形が崩れちゃうよ……」
サキ「ということで、ユーナに感謝しなさい」
ヌケ・サーク「うひうひ」
ユーナ「……ちっとも嬉しくないんだけど」

サキ「さて、次はユーナの番ね」
ユーナ「え?私!?……すっごくやりたくないけど……帰るためには仕方ないか……あぅ……」
ヌケ・サーク「さぁさぁ、どっちに賭けます?」
ユーナ「う〜〜ん、それじゃあ……半……かな……」
ヌケ・サーク「ではではサイコロ振りますよっと、コロコロコロ……3と、2で“丁”またまた私の勝ちですな!」
ユーナ「ぁ……あぅぅぅぅぅ……」

ユーナのパンツ
ヌケ・サーク「むふふ、あなたには下を脱いでもらいましょうか、げへへ」
ユーナ「あうぅ〜〜〜」

 ユーナがしぶしぶスカートを脱ぐ。上着が短いので、パンツが丸見えになってしまった。

ヌケ・サーク「おぉ!白ですな。シンプルで清楚なのが良いですな〜、うひひひ」
ユーナ「じろじろ見ないで〜」

ヌケ・サーク「さぁ、次はどちらが挑戦しますかな?」

 サキとユーナは顔を見合わせる。これ以上負けて脱がされると、サービス過剰で作品が18禁になってしまいそうだ。
 サキはニヤリと笑うと、ユーナに小声で話しかけた。

サキ(ユーナ、アレをお願い)
ユーナ(え?アレって何?)
サキ(「ラックの魔法」よ!)
ユーナ(え!?運勝負なのに、魔法に頼るの?)
サキ(魔法だって実力のうちよ)
ユーナ(うぅ、確かにこれ以上負けられない。じゃあ、サキちゃんにかけるよ)

 ユーナはヌケ・サークに気づかれないようにサキの背中に手をまわし、小声で呪文を呟く。

『ラックの魔法』
 確率に働きかけ、一時的に運を上昇させる魔法。賭博では絶対に許されないイカサマの一つである。

サキ「いいわよ。次は私が受けて立つわ!」
ヌケ・サーク「威勢だけはいいですな。では、半か丁か?」
サキ「今度こそ、半!」
ヌケ・サーク「いきますぞ。コロコロコロっと…………半、ですな。残念」
サキ「……ふぅ、少し手こずったけど、これで先に進めるわ」
ヌケ・サーク「仕方ないですね……では帰る方法を教えましょう。『赤い宝石』に触れると帰ることができます。この世界にいくつかあるのですが、一つはこの辺りのオブジェに埋め込まれていますよ」
サキ「よし、早速探そう」
ユーナ「うん!」

赤い宝石
 オブジェの数はそう多くなかった上に、透明と白が基調の景色の中で「赤い宝石」は非常に目立ったので、すぐに見つけ出すことができた。
 それは、透明な平たい岩にはめ込むような形で、ぽつんと置かれていたのだった。

サキ「あ、これかな」
ユーナ「あっさり見つかったね。早く帰ろう♪」
サキ「…………ちょっと待って」
ユーナ「え?」
サキ「この宝石、持って帰れないかな?」
ユーナ「も、持って帰っちゃうの!?確かに“お宝”だとは思うけど……」
サキ「直接触れなきゃいいのよね。何かヘラのようなものでほじくり出して、袋に入れちゃえばいいんじゃない」
ユーナ「でも、どうやって元の世界に帰るの?」
サキ「あいつは、赤い宝石は「この世界にいくつかある」って言ってた。これ以外にもあるはずよ」
ユーナ「確かに言ってた!じゃあ……やるだけやってみよう。ヘラ…ヘラ…あ!これなんかどうかな?」

赤い宝石を取り出せ!
 道具袋を漁っていたユーナが取り出したのは……前回の冒険で手に入れた、銀製のナイフとフォークだった。赤い宝石とやらに魔力が宿っているのなら、銀製の道具とは相性が良さそうだ。

サキ「いいわね!早速トライよ!」
ユーナ「うん!」

 サキがナイフで宝石の周囲をガリガリと削り、出来た隙間に刃を差し込んで力を入れると、宝石はボコッと取れた。
 手で触れないように注意しながら、ナイフを上手く使って袋の中に入れてしまう。

サキ「よし!お宝ゲット!こいつはきっと高く売れるわ!」
ユーナ「わーい!これで明日からの食費に悩まなくて済む!」
サキ「さて、後はもう一つ宝石を探すだけだけど……どうする?」
ユーナ「魔法で探ったときに“流れが見えた方”が近いね。行ってみる?」
サキ「そうね、他にアテもないし、そうしましょ」

 お宝を手に入れたゴキゲンな二人は、鼻歌を歌いながら、そちらに向けて歩き始めた。

 そして30分ぐらい後、特に何事も無くその場所に到着する。
 ユーナが見た“流れ”は、水ではなく砂の流れ――つまり流砂のことだった。複雑な縞模様になった砂が、ゆっくりと一定方向に流れていく。
 さほど強い流れではなく砂煙も無かったので、二人は警戒を緩めていたが、砂の音が少しずつ大きくなり、ズズズズ……という低く不穏なものに変わる。同時に、流れが歪んで渦巻き状になった。

サキ「…………」

 サキは鼻歌をやめ、表情が険しくなる。

ユーナ「……どうしたの?」
サキ「嫌な予感がする。この場を離れたほうがいい。早く!」
ユーナ「ちょ、ちょっと待ってよ〜〜」

 サキは反転すると、全速力でダッシュする。
 ユーナは慌てて後を追った。

 その直後、

 ズドン!!

 という音を立てて、二人の背後で渦を巻いていた砂の中心が大きく膨張し、中から巨大な“何か”が出現した!

サンドウォーム襲来!
サキ&ユーナ「!!!」

 二人は振り返ると同時に剣の柄を握り、魔法の杖を構える。

サキ「魔物!?」
ユーナ「サンドウォーム!!大きい!!!」

『サンドウォーム』
 砂漠の砂の中に生息する巨大な環形動物。体長は3〜10メートル程もあり、肉食で獰猛。目や耳は退化しているが、代わりに地上の振動を鋭敏に感知することができ、獲物が近づくと砂の中から頭部を出して襲い掛かる。口には無数の鋭い歯が並び、唾液は強酸性のため、襲われると非常に厄介。大きな固体だと、人間を丸呑みにしてしまったケースもある。
 弱点は、皮膚が柔らかいことで、剣等の刃物による攻撃は有効。又、下等生物のため魔法耐性などあるはずもない。地上に出現する際には、一瞬だけ地面が盛り上がるため、その場所を回避しつつ剣や魔法による攻撃を当てていけば、確実に倒すことができるだろう。出現時に周囲に撒き散らかされる唾液にも要注意である。尚、逃げることもできるが、移動速度はかなり速く、非常に執念深いためオススメはできない。

サキ「私が引きつけておくから、ユーナは魔法をお願い!」
ユーナ「わ、分かった!」

 サキは大きく地面を踏み鳴らして駆け出し、ユーナは魔法の詠唱を開始した。

 サンドウォームは地面に潜り、物凄いスピードでサキを追ってきた。
 軽装のサキもかなりのスピードで疾走しているのだが、すぐに追いつかれてしまう。

サキ「!!」

 足元の砂地が膨張するのを察知し、彼女は素早く横に跳躍した。
 その瞬間!

 ドザァァァァァァァァァァァッッ!!!

 大量の砂を巻き上げ、サンドウォームの巨体が出現した。

サキの攻撃!
サキ「逃げてるばかりじゃないわよっっっ!!!」

 着地と同時に剣を抜くと、サキは再び跳躍してサンドウォームに斬りかかった!

 ズヴァァァァァァァッ!

「%&’)>〜〜|(’%’()=〜=+*!!!!!」

 空中の不安定な体勢にもかかわらず、サキの剣は正確にサンドウォームの柔らかな皮膚と肉を切り裂く。
 体液を撒き散らしながら、サンドウォームは声にならない悲鳴を上げて身体をくねらせる。
 怒りに燃えて大きな口を開き、今度こそ捕食せんと、少女に狙いを定めた。

サキ「ユーナ!今よ!!!」

 そして、同じタイミングでユーナの詠唱が完了した!

ユーナの魔法!
ユーナ「…………風の刃よ、行け!そして目標を切り裂け!」

 彼女が目を開くと、高圧縮空気の刃が出現し、サンドウォームを狙って射出された。
 三日月状の刃は、高速で回転しながら緩やかな円弧の軌跡を描いて飛翔する。
 サンドウォームは身体をくねらせて回避しようとするが、到底間に合わなかった。

 ズヴァァァァァァァッ!

「$%&=〜+↑↑↓↓←→←→!!!!!」

 狙い通りにその身体を大きく切り裂き、風の刃は高速で彼方にすっ飛んでいった。
 おびただしい量の体液を撒き散らしながら、サンドウォームはすさまじい痛みにのたうち回る。
 それは間違いなく致命傷だった。

再び赤い宝石
 絶命したサンドウォームの死骸は、一瞬で消滅してしまった。
 あまりにも不自然な消え方を不審に思って二人が近づくと、そこには遺跡で見つけたのと同じ赤い宝石が落ちていた。

サキ「どうなってるのかよく分かんないけど、これで帰れるってことなのかな?」
ユーナ「こ、この宝石も持って帰ろう……とか言わないよね?」
サキ「言わない言わない。何が起きるか分からないからこれ以上のリスクを背負うのはゴメンよ。さっそく帰りましょ」
ユーナ「うん!それがいいね!」


 二人が同時に宝石に触れると、まばゆいばかりの白い光が包み込む。
 数秒して光が消えたとき、二人は元の草原に立っていたのだった。

お金持ちの二人
 その後のことは、多く語る必要も無いだろう。
 持ち帰った「赤い宝石」は、大量の魔力を蓄えており、非常に高額で売ることができた。
 ちなみに、元の世界に戻ってからは宝石の光は失われ、手で触れても何も起こらなくなっていた。

サキ「これで一年ぐらいは仕事しなくても生活できそうね」
ユーナ「やったぁ!久しぶりにゆっくりできる!」

 あまりにもたくさんのお金を手に入れたので、持ち帰った「瓶詰めの砂」のことはすっかり忘れてしまっていた。
 冒険は成功し、当面の生活の心配をする必要はなくなった二人だが、果たして仕事もせずに遊んで暮らすことはできるのだろうか?

 それは次回で明らかにすることにしよう。
 無限回廊に初めて挑んだお話は、ここで終わりにしたいと思う。

おしまい

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