とれじゃーはんたーず! 第6話 探索!「魔法都市遺跡群」<前編>

 この世界の摂理の一つに、“無から有を生み出すことは出来ない”というものがある。
 何もないところからエネルギーや物質を作り出すことは不可能であるということは、人間が手にするエネルギーや資源は世界のどこかから抽出したものであるということを意味する。
 基本的にそれらは有限であり、枯渇の危機と隣り合わせだった。特に自然界から取り出しやすいものほどその傾向は強かった。


 しかし、ある時、一人の研究者が一見何もないところからエネルギーを抽出する革新的な方法を考案した。
 その方法は瞬く間に世界中に広がった。正式名称は別にあったが、誰もその名で呼ばず、オカルトめいた別称――「魔法」と呼んだ。無から有を生み出すという、摂理に反した技術を指すにはぴったりと言えるだろう。
 魔法によって人類の文明は急速に発展し、高い障壁に囲まれた巨大な都市が各地に建設された。後にそれらの施設は「魔法都市」と呼ばれることになる。

 魔法による恩恵が世界中に行き渡り、それ無しでは人類の存続が成り立たなくなった頃、“魔法が魔法ではない”ことが明らかになった。
 つまり、魔法であっても“無から有を生み出すことは出来ない”という法則に縛られていたのだ。
 魔法が消費していたのは、世界に満ちる「生命エネルギー」であった。使えば使うほど、土壌は荒れ、河川や湖には毒があふれ、木々は枯れ、動物が死んでいった。
 生命エネルギーが急速に失われ、加速度的に破壊されていく自然環境がパニックを引き起こし、エネルギーを奪い合う戦争が世界中で勃発した。
 その戦争の最中、魔法を利用した新たな技術が確立された。
 生命エネルギーを使用して、人工的に新たな命を生み出す技術だ。
 魔法によって生み出された生命は「魔物」と呼ばれた。魔法由来という理由だけではない。彼らは非常に暴力的で、戦争に使用する以外に用途が無かったからだ。
 魔法や魔物を使った戦争では、戦争による破壊に加え、消費される生命エネルギーによる破壊も進む。
 人類が滅亡の危機に瀕するまで、100年を要しなかった…………。

ユーナ「……っていうのが魔法都市の歴史なんだけど……サキちゃん、ちゃんと聞いてた?!」
サキ「え、あぁ……うん、ちゃんと聞いてたよ?まぁつまり……魔法都市ってのはすごく巨大で目立つから、今まで誰も発見できなかったってのはおかしい……ってことでしょ?」
ユーナ「それだけ分かればいいんだけど……難しいところは全部スルーしちゃってる……」


 ここは、サキとユーナが暮らす街外れの小さな借家。
 二人が話をしている質素なダイニングテーブルの中央に、一枚のビラが置かれている。
 トレジャーハンターギルドのカウンターで配布されていたもので、森の中で「魔法都市遺跡群」が発見されたという内容だ。

『魔法都市遺跡群』
 古代の魔法都市がそのまま遺跡として残っているもの。一般的には高い壁に囲まれ、一か所だけあるゲートを除いて侵入は不可能とされている。ゲートはゴーレムと呼ばれる強力な魔物が守護しており、倒して入るのは相当に困難を伴うだろう。しかし、中に眠っているお宝には、その困難に見合う価値があるのも確かだ。

 問題なのは発見された場所だ。
 その森には街道が敷設されていて馬車などの往来があり、発見者がラフスケッチを描いたとされる丘も、見晴らしが良いので訪れる人が結構いる。
 「今まで発見されなかったのはおかしい」と首をかしげるユーナに対し「森の木々に隠れてたんでしょ?」とサキが反論して冒頭の会話に繋がる。

サキ「それで、どうするの?行くの?行かないの?」
ユーナ「うぅ〜……どうしようかな……」

 未踏破の魔法都市遺跡に入るには、ゲートを守護しているゴーレムを倒さなければならないのだが、先遣隊の情報によると、強力なアイアンゴーレムが立ちはだかり、全く歯が立たないとのことだった。

『ゴーレム』
 巨大な人型の魔物。見た目ほど鈍重ではない上に、全身を装甲で覆われていて防御力が非常に高い。装甲の種類で強さが大別されており、ウッド(木製),ストーン(石又は鉱物),アイアン(鉄などの金属製)の順で強力になる。特にアイアンゴーレムの中には無数の武器を搭載し遠距離から緻密で正確な攻撃を行う個体が確認されており、別の種ではないかとの議論がある。

サキ「ま、どうせ他に目ぼしいクエストは無いんだし、行くだけ行ってみましょ」
ユーナ「そんなピクニック気分でいいのかなぁ」

 二人は冒険の準備を始めたが、意気揚々……というほど気分が盛り上がらない。
 ここ最近、奇妙なクエストや依頼が続いている上に、今回の魔法都市も突如発見されたということで不安が拭い切れなかった。

 翌朝、準備を整えた二人は街を出発し、街道沿いに歩いて、森を一望できる丘の頂上を目指す。
 ギルドから配布されたビラにも魔法都市の大体の位置は書かれているのだが、本当に存在することを自分たちの目で確かめたかった。
 街道から少し外れた場所にある丘は特に危険も無いので、頂上に着くのは容易だったが、当然登り坂ばかり続くので歩きだと多少骨だった。


サキ「ふぅ……やっと着いたわ」
ユーナ「うん……きゃっ!」

 丘の頂上は遮るものが無いので時折強い風が吹く。ユーナはスカートと帽子を押さえた。サキのロングヘアも風で大きくなびいている。

ユーナ「思ってたより大きいな……」
サキ「結構目立つのね。確かに誰も気づかなかったのはおかしいわ」

 サキがイメージしていたのは、森に飲み込まれて朽ち果てた遺跡群だったのだが、所々崩れてはいるものの形は保たれていた。丘から見下ろせば魔法都市があるのは一目瞭然だ。

サキ「大体の位置は確認できたし、そろそろ降りようか」
ユーナ「……何だか悪い予感がする……」

 魔法使いというだけあって、ユーナの“悪い予感”は大体当たる。とは言っても、今更引き返すつもりはなかった。

サキ「ベースキャンプをのぞいてみるってことでいいわよね」
ユーナ「他のハンターと話をするの、苦手だよ〜」

 魔法都市遺跡群の攻略には大まかな手順がある。
 まず、魔法都市の付近まで道を造り、物資を運んでベースキャンプを設営する。
 ハンターたちはベースキャンプで寝泊まりしながら、協力してゴーレムや魔物を倒し、ゲート付近の自動攻撃システムを無力化して突入経路を確保する。
 その後はパーティ単位で魔法都市の中に侵入し、魔物を倒しながら点在する遺跡から“お宝”を持ち出す。
 怪我の治療や休養は当然ベースキャンプで行う。お宝も一旦ベースキャンプに保管し、時期を見て街に運搬して換金する。

 入り口のゴーレムや強力な魔物を倒すのが最も困難なので、選び抜かれた強豪のハンター達が最初にこの任務にあたる。
 サキやユーナのような弱小ハンターは、魔法都市の中の魔物があらかた倒された後に入って、“おこぼれ”にあずかる程度だ(それでも結構な額のお宝が手に入るのだが)。
 つまり……先遣隊がゴーレムを倒せていない今の段階で、二人がベースキャンプを訪れても、情報収集ぐらいしか出来ないということである。

 ベースキャンプは丘と魔法都市の中間地点にあったので、森の街道を数時間歩くと見えてきた。
 サキとユーナは魔法都市の攻略に参加したことはなく、ベースキャンプを訪れたこともないのだが……それでも何となく違和感があった。気怠い雰囲気で、活気がまるで感じられない。
 忙しそうにしている人が少ないので、情報収集はやりやすそうだった。
 バスタードソードを背負って切り株に腰を下ろし、煙草をふかしている男がいたので、取りあえず声をかけてみると、よほど暇だったのか今の状況を長々と話してくれた。

「ゲートに居座ってるアイアンゴーレムが、とにかく強い。強すぎる。近づくこともできねぇんだよ。こちらの位置を正確に把握して、遠くから変な赤い光で攻撃してきやがる。ピカッと光ったら、その瞬間には鎧が融けたり大火傷したりするんだ。何が飛んできてるのか未だに分かんねぇ」
サキ「魔法かしら?」
「詠唱のラグもねぇし、魔力の反応もないらしい。わけがわからん」
ユーナ「あ、あの……ステルス、は……」
「シーフのステルスも、カメレオンの魔法も試した。全部ダメだ。大勢で取り囲んで一斉攻撃もやってみたけど、全員同時に反撃された。お手上げだ」
サキ&ユーナ「…………」

 サキとユーナは無言で顔を見合わせた。男が言っていることが事実なら、確かに全く歯が立たないだろう。おそらく、これまで誰も遭遇したことのない攻撃方法だ。
 男は二人に、ラフスケッチが描かれた一枚の紙切れを手渡した。


「こいつがそのアイアンゴーレムだ。今のところゲートから動いてないみてぇだが、俺たちがキャンプ張ってるのは気づいてるだろうから、向こうから攻撃を仕掛けてこないとも限らないってよ。遠くからでもチラッと見えたら迷わず逃げろ。間違っても手を出すなよ。シャレにならんほど強えぞ」
サキ「ずいぶん細っこいのね。本当にゴーレム?」
ユーナ「多脚のアイアンなんて見たことない。新種かも」

 華奢に見えるが、一般的なゴーレムの全高は5〜10メートルぐらいなので、腕や脚の太さは一抱えほどということになる。おそらくは関節部分が弱点だろうが、生半可な攻撃を当ててもダメージはほとんど与えられないだろう。

「正式に決定されたわけじゃねぇが、近々キャンプを畳もうかって話が出てる。嬢ちゃんたちも出直した方がいいぜ」
サキ「色々ありがとう。それじゃあ」

 サキが手を振り、ユーナが頭を下げて男と別れる。

サキ「…………で、どうしよう?」
ユーナ「う〜〜〜ん……」

 男から数メートル離れて、サキが小声で問いかけると、ユーナは考え込んでしまった。
 すぐに魔法都市に入れないということは最初から分かっていたし、様子見と情報収集なら済ませてしまった。このまま引き返したとしても、目的を十分に達成したことにはなる。
 しかし、そうするのは何となく釈然としなかった。
 基本的にあまり悩まずに物事を決めてきた二人だったが、珍しく迷っていた。
 その迷いを断ち切ろうとするかのように、サキが口を開いた。

サキ「ねぇ……ゴーレムって、ゲートの前にしかいないの?」
ユーナ「え?どうだろう……出入り可能なのはゲートだけだから、調べた人はいないんじゃないかなぁ?」
サキ「だったらさ、私たちで調べてみようよ。中に入らずに周囲を探索するだけなら、そんなに危険はないでしょ?」
ユーナ「確かに中に入るよりはマシだと思うけど、意味あるかな……」

 ユーナは再び考え込む。
 魔法都市の外周にお宝があるわけないし、出入り口がゲートだけなのも確かだ。
 しかし、先ほどの男の話が事実だとすると、彼女には1つ引っ掛かっている点があった――ゴーレムの攻撃が「無差別すぎる」のだ。
 破壊と殺戮を主な目的に設定された数多の魔物とは違って、ゴーレムは何かを守護するために配置されていることがほとんどで、対象が敵性かどうかを判断してから攻撃に移る。
 問答無用で遠隔射撃というのは聞いたことが無かった。そんなことをすれば運用に支障が出る。例えばゲートを守護する場合、物資の搬入や交易目的の人間は通過させる必要があるからだ(廃墟となった今ではそんな人はいないが)。
 この魔法都市遺跡には何かある……直感がそう告げていた。

ユーナ「分かった。周囲を探索してみよう。でも……慎重にね」
サキ「オッケー、じゃあ、改めて出発ね!」

 方針が決まったことで、いつもの調子を取り戻したサキは歩き始め、ユーナがその後を追った。

 街道を少し戻ると、一本の細い横道……というか獣道があった。二人はその道から、深い森の中へと踏み込んでいった。
 残念ながら、小一時間ほど歩くと道は途切れてしまう。
 空を遮る木々、深い下草。自然の気配が急に濃厚になるのを感じる。
 森の中は迷いやすい。見通しが効かない上に周囲は似たような景色なので、方向感覚が無くなってしまうのだ。
 だが、探索を生業としている二人は、これぐらいのことで怯んだりしない。サキは慎重に方向を確認しながら進み、ユーナは時折木の枝にマーキングしている。そして、二人には方向を定めるために大きな目印があった。
 そう……魔法都市だ。
 そそり立つ巨大な外壁は森の中からでも良く見えた。外壁に沿って歩けば、おのずと周回することになる。

ユーナ「あ……あれぇっ!?」
サキ「どうしたの急に?」

 ユーナが大きな声を上げ、魔法都市の方を指さす。
 サキが不思議そうにそちらを見ると……ずっと見えていたはずの外壁が忽然と姿を消していた。

サキ「ど、どうなってるの?!」
ユーナ「分かんないよ……」

 今度はサキが驚いて声を上げてしまう。
 外壁があった方向には、空と遠くの山が見える。しかし、違和感があった。
 境界線で景色にズレがある上に、水面に映っているみたいに微妙なブレが発生している。まるで外壁の向こうの景色を描いて、無理矢理に合成したようだった。
 二人が凝視していると……スゥーっと再び外壁が姿を現した。

サキ「……とりあえず落ち着こう」
ユーナ「そ、そうだよね。落ち着こう」

 サキとユーナは顔を見合わせて確認すると、たまたまあった手頃な岩に腰を下ろす。
 深呼吸した後、休憩を兼ねて少し話をすることにした。

ユーナ「見間違い……じゃないよね?」
サキ「二人とも見たんだから、見間違いじゃない。実際にあったことよ」
ユーナ「だとしたら、何なのかな……」
サキ「ねぇ、魔法でああいうことって出来ないの?」
ユーナ「うーん……周囲と一体化して姿を消す「カメレオン」っていう魔法があるから、それを結界石で増幅すれば出来るかもしれないけど……でも、誰が、何のために?」
サキ「それは分からないけど。一つ謎は解けたわね」
ユーナ「え?どういうこと?」
サキ「ユーナが言ってたんじゃない、「こんな場所にある魔法都市遺跡が今まで見つからなかったのはおかしい」って。魔法で隠されていたなら納得だわ」
ユーナ「それはそうかもしれないけど、こんな大規模な結界と魔法を何年も……十年以上かも……維持する理由や方法とか、別の謎がいっぱいだよ〜」
サキ「ま、考えるのはこれぐらいにして、そろそろ行きましょ。ゲートからだいぶ距離は取ったと思うから、外壁に近づくってことでいいわね」
ユーナ「それでいいけど……慎重にね」
サキ「はいはい、分かってるわよ」

 外壁に近づくと、二人は剣と杖を構えて臨戦態勢を取る。魔物やトラップが配置されている可能性が高いと判断したからだが、特に何も無く外壁のそばまで到達する。

サキ「すごい……継ぎ目一つ無いのね。どんな技術なのかしら」
ユーナ「わわっ!サキちゃん、触っちゃダメだよ!」

 二人は外壁を見渡す。
 魔物やトラップが無いのは良かったのだが、それ以外にも特に何も無かった。所々崩れているが、のっぺりした壁が延々と続いているだけだ。
 外壁に沿って歩き始めたが、目ぼしい発見は無さそうだ。

ユーナ(ハズレかぁ……それならそれでいいけど……)

 ユーナが残念感と安堵感で少し気が抜けてしまった頃……

サキ「あそこ!何かあるわ!」

 サキがずっと向こうの壁を指さした。

 近づくとすぐに分かった。それは大きなドアだった。
 二人が見たことのない形だが、間違いなくそうだろう。

サキ「わぁ、ドアね!裏口ね!裏口入学ね♪」
ユーナ「サキちゃん、止まって!……ここ、ドアを開けた跡がある」

 嬉々としてドアを調べようとするサキを、ユーナが制止する。
 彼女が指し示したのはドアのすぐ下の地面だった。そこだけ草が倒され、乱れている。
 ごく最近、誰か(もしくは何か)がドアを開けたのだ。

サキ「先客がいた、ってこと?」
ユーナ「そうじゃないのかも……“ドアを開けた跡”だけで、足跡が見当たらない。内側からドアを開け閉めしたらこんな感じになりそうだけど……うぅ〜〜訳わかんないことが多すぎだよ〜〜」

 強力な魔法で隠蔽された魔法都市遺跡。ゲートからの侵入を拒む排他的なゴーレム。外壁に設置された不審なドア。そしてそのドアを使用した奇妙な痕跡。
 脈絡のない謎にユーナは混乱するが、ここで考えていても何か分かるわけでもない。
 二人は念のため周囲を探ってみたが、何の気配も感じられない。
 取りあえずの危険は無さそうだったので、ドアを調べてみることにした。

 そして、調べれば調べるほど、おかしなドアだということが分かった。
 まず、ドアノブが無い。ドアを掴むための細長い取っ手はあるのだが……ドアを閉めると同時に施錠されるようにでもなっていないと、閉めた後で勝手に開いてしまうだろう。
 さらに鍵穴が無い。代わりに二つの装置が取り付けられていた。一つは1〜9までの数字が書かれた釦と細長い溝、用途不明の小窓がある。もう一つには実物大の掌が描かれていた。試しにサキが手を近づけてみたが、特に何も起こらなかった。
 ドアの大きさも奇妙だった。人間用だとすると大きすぎるのだ。旧世代人の身長はサキの倍――3メートル近くあったのだろうか?

サキ「さて、問題は開けるかどうか、ね。簡単に開くとも思えないけど。鍵穴が無いからピッキングもできないし」
ユーナ「うぅぅ、悩むよ〜〜」

 ユーナの頭を、様々な考えが巡る。
 本来なら、今の時点でベースキャンプに引き返してこの“裏口”のことをギルドに報告すべきだ。
 たかがドアを開けるだけ……と油断するべきではない。致死性のトラップが仕掛けられていることは十分あり得る。
 仮にドアを開けることが出来たとしても、中に入ることは禁止されている。この魔法都市遺跡群のチャレンジもクエストであり、ベースキャンプにあるギルド出張所の指示無くては動いてはいけないことになっている。

 と同時に、ドアを開けて中に入るのは魅力的だった。
 腕利きのハンター達も、ギルドの偉い人たちも、ゴーレムを倒してゲートから正面突破することしか頭にない。この“裏口”から魔法都市遺跡の中に入ることが出来れば、彼らを出し抜いて一番乗りだ。お宝だって取り放題だ。もちろんギルドから盛大に叱責を受けるだろうが、結局は「やったもん勝ち」なのだ。
 今まで、大したクエストにチャレンジしてこなかった。
 レベルの高いハンター達の後ろをついて行っただけの時もあった。
 女の子二人の弱小パーティーと馬鹿にされたこともあった。
 ギルドの決め事が何だというのか。自分たちは月給で規律に従って動くだけの軍隊でも騎士団でもない。お宝ゲットで一攫千金を狙う、自由気ままなトレジャーハンターなのだ。

ユーナ「……うん、開けよう!」
サキ「あら、ユーナにしては珍しい。てっきり「帰ってギルドに報告しなきゃ」って言うと思ったのに」
ユーナ「だって、これはチャンスだよ。チャンスは活かしてナンボだよ!」
サキ「そうこなくっちゃ!じゃあ、私が開けるからユーナは下がってガードしてて」
ユーナ「うん!」

 ――彼女たちの選択が、世界の命運をほんの少し変えることになる。


 サキは、ドアに背を向ける形で立つ。ドアを開けた途端に矢や弾丸が飛んできても、ドアを盾にできるからだ。
 ユーナが配置についたのを確認すると、サキはまず指先で取っ手に触れた。
 ……特に異常は無い。取っ手に酸や毒が塗られていたり、触れたとたんに電撃が流れるといったトラップは無さそうだ。
 サキがユーナに頷くと、ユーナも頷き返す。
 思い切って、サキは取っ手を握った。

 ガシャン!

 その途端、大きな音が鳴る。
 サキは反射的に手を放すと、慌てて駆け寄ろうとするユーナを制止した。トラップにしては作動音が大きすぎる。
 取っ手の裏を良く調べてみると、レバーのようなものが付いていることが分かった。取っ手を握ると同時にレバーが押し込まれるようになっている。

サキ(なるほど、こういう“ドアノブ”だったわけね)

 サキは再びユーナに頷くと、取っ手とレバーを握り、力いっぱいドアを引いた。
 これほど重厚なドアならロックがかかっていて当然で、取っ手の付近にあった用途不明の装置はおそらくそれを解除するためのものだろう。引っぱっただけで簡単に開くはずがない、とサキもユーナも思っていたのだが……。

 ギギギィィィ……

 意外なほどすんなりとドアは開いた。軋み音がしたのは最初だけで、以降はスムーズに開いてゆく。
 二人は慌てて身構えるが、ドアの向こうから何かが飛んできたり、魔物が襲い掛かってくることはなかった。

 ドアが完全に開いて、何も起こらないことを確認すると、二人は“裏口”の前に立つ。
 そこには、得体の知れない魔法都市遺跡の中へと続く、無機質で虚ろな暗闇が口を開けていたのだった。

第7話 探索!「魔法都市遺跡群」<後編>に続く

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