とれじゃーはんたーず! 第7話 探索!「魔法都市遺跡群」<後編>

 トレジャーハンター達は基本的には全員ギルドに所属しているが、決してギルドを全面的に信頼しているというわけではない。
 その理由の筆頭は「ピンハネがひどい」ことだ。他にも「決まりが細かすぎる」「上が何を考えているか分からない」「政府や金持ち連中と癒着している」など、いくらでも挙げられる。
 反面、メリットとしてはギルドが発行するクエストは(それなりには)信用できる点があり、又クエスト中に発生する怪我や事故は(ある程度は)補償される。クエストからの帰還が極端に遅れていると(状況によっては)他のハンターを派遣してくれることもある。
 つまりトレジャーハンター達は“クエスト”という仕組みでギルドから(限定的だが)保護されているということであり、今回のサキとユーナのようにクエスト外の行動――特にリスクを伴う行動を取っている時は、極端な緊張を強いられる。

 魔法都市遺跡の中へと続く“裏口”のドアを開けた二人は、まずそのままの状態でくさびを打ち込み固定した。
 中に入った途端に自動で閉まってロックされてしまうかもしれないからだ。
 装備をチェックしてカンテラを点けると、真っ暗な通路に足を踏み入れた。
 カンテラの光を頼りに暗闇の中を進む。通路は真っすぐで、曲がり角も分岐も見当たらない。

ユーナ「すごい……床も壁も、滑らかで継ぎ目がない」
サキ「保全状態がいいわね。誰も通った形跡がないけど……ドアを開け閉めしたのはゴーストかしら?」
ユーナ「こ、怖いこと言わないで〜」

 ほどなくして通路は突き当りとなる。
 壁には大きなドアが取り付けられていた。近寄って調べてみると、通路に入った時のドアと同じものだということが分かった。
 脇にあった仕掛けには触らずに、サキが取っ手を掴んで押すと、同様にあっさりと開いた。
 ドアを開けたとたん、強い勢いで外の空気が入り込んでくる。
 砂埃で霞んだ空の彼方に、オレンジ色の太陽が見える。巨大な墓標のようにそそり立つ建造物と、荒廃した地面が、見渡す限り延々と続いていた。
 慎重に慎重を重ねていたのだが何の危険も無く、拍子抜けするほど簡単に、二人は魔法都市遺跡の中へと足を踏み入れたのだった。


 そこは、二人がこれまで探索してきたどの遺跡とも全く異なっていた。
 元々は人が利用していた建造物のはずなのだが、生活感も温かさも全く感じられない。かつて人が暮らしていた街とは思えなかった。

サキ「なんだか……寒くない?」
ユーナ「気温は下がってないはずだけど、うすら寒いよね……」

 人が作り出したものなのに、人が住んでいた痕跡が全くないというのは、魔物が徘徊しているよりも薄気味悪かった。

 砂埃の混ざった乾いた風が、絶え間なくヒュウヒュウと吹き抜けていく。
 道には瓦礫や破片が散乱しており、流動物を型に流し込んで固めて作ったとしか思えないような、無機的な形の建造物は、あちこちに亀裂が走り、激しく崩れているものもあった。
 サキとユーナは周囲を警戒しながら、ゆっくりと歩く。同時に、建物を一つ一つ見定めていた。
 このような巨大な遺跡群を攻略する際に重要な事柄の一つに、「損傷の少ない遺跡を探す」ということがある。
 侵入した後に崩落してしまうと、文字通り生き埋めになってしまう危険がある。最悪それで死亡する場合もあり得るのだ。
 二人が魔法都市に入った時に、陽は大きく傾いていた。もちろん野営の準備はしているが、こんな得体の知れない場所で一夜を過ごしたくはなかった。
 入る遺跡を早く決めて、手早く探索して、さっさと引き上げなければならない。

サキ「夜になるまで時間があまり無いわ。どの建物に入るのか、早く決めなきゃいけないわね」
ユーナ「うん。お宝がありそうな場所なんて全然分かんないから、ダメージが少なそうなのを探そう」

 都市のメインストリートと思われる大きな道を歩いていると、一際大きな円筒形の建物が目についた。
 周囲に広々としたスペースが確保されたその建物は、かつて重要な場所だったように見えた。周辺の建物に比べると、損傷も少ない。

サキ「あの建物がいいんじゃない?」
ユーナ「私もいいと思う。とりあえず入ってみよう」

 他の建物と比べて損傷が少ないとはいえ、長期間放置されていたことに変わりはない。入り口と思しき大きなドアは半壊しており、侵入は容易だった。
 中は暗闇だと思い込んでカンテラを点けて踏み込んだ二人だったが、驚いたことに建物の中には照明が灯されていた。

サキ「照明が!?」
ユーナ「サキちゃん、この建物「生きてる」!」

 廃墟同然だった外見とは異なり、中はそれほど壊れていない。
 あちこちの照明は探索に十分な明るさではないが、それでもこの建物が完全に死んではいないことを示していた。
 二人は慌てて武器を構えて周囲を警戒する。
 魔物の気配が無いことを確認すると、ゆっくりと中へと進んだ。

 光は天井や壁からだけではなく、建物内に配置された無数の装置からも発せられていた。
 時折明滅したり、色が変わったりしている。手元や足元を明るくするための照明だとすると、あらゆる点で奇妙だった。

ユーナ「これ……照明なのかな……?」

 ユーナが一際強い光を出している四角い小窓に近づいて覗き込むと、そこには見たことが無い無数の文字が映し出されていた。
 文字列は常に変化していた。行単位で小窓の上に移動しており、下の方から新たな文字列が現れる。
 今までの冒険の中で、生きている遺跡――遺構は何度も見てきたが、これほどまでに高度なアーティファクトが機能しているのを目の当たりにしたのは初めてだった。

ユーナ「サ、サキちゃん!」
サキ「どうしたの?」

 ユーナに呼ばれて“光る小窓”に近づいたサキも息をのみ、表情が険しくなる。
 基本的に、遺跡の中にあるアーティファクトは戦争の遺物で、つまり兵器だ。魔物だって本来は敵の人間を殺すために造り出された。
 完全に壊れていれば害は無いが、中途半端に動作していると脅威になる。
 魔力が供給されているだけでなく、個々のアーティファクトが連携して機能している……それは、即時退避を要する危険事態であることを意味していた。

サキ「ちょっとヤバいわね。早いとこお宝見つけて撤退するわよ」
ユーナ「うん、そうだね」

 サキとユーナは手っ取り早く持って帰れそうなものを探すために、カンテラの明かりを頼りに周囲を見渡したが、外の荒れようとは対照的に建物の内部は恐ろしいほどに整然としており、持ち出せそうなものは見当たらなかった。

ユーナ「……変だよ。綺麗すぎるよ〜」
サキ「キレイ好きの魔物が毎日掃除してたりして」

 冗談を口にするが、サキの目は笑っていない。
 暗闇の中でずっと周囲を観察していると、徐々に目が慣れてくる。より広範囲の状況が分かるようになったことで、お宝を見つける代わりに、ちょっとした発見があった。

サキ「ユーナ、あれ!となりの部屋から光が漏れてる!」
ユーナ「え?……ほんとだ!」

 となりの部屋へと続くドアが少し開いていて、そこから青白い光が漏れていた。
 二人は小声で移動するかどうかを相談するが、結論はすぐに出た。
 この場にとどまっても埒が明かないし、今のところ状況が急に悪くなることもなさそうだ。移動することに決めると、光に向かって歩き始める。
 そして、ドアを開けて二人が目にした光景は、想像を絶するものだった。


 部屋と呼ぶには広大過ぎる空間は、隈なく青白い光が照らしていた。
 装置類が置かれている点はそれまでいた部屋と違いは無いが、一際目立つのは、中央に置かれた円筒形の巨大な容器だった。
 中は液体で満たされていた。そして、中央に鎮座していたのは……。

サキ「あれは…………ド…ドラゴン!?」
ユーナ「え?……そ、そんな……」

『ドラゴン』
 体長十数メートル、全高10メートル以上。人間を丸呑みできるほどの巨大な口には無数の鋭い歯が並び、周辺一帯を焼き払える威力の火炎ブレスを吐くと言う。また、それだけの巨体でありながら、背中の翼で飛ぶことが出来たとされる。存在すれば、間違いなく最大、最強の魔物であろう。……存在すれば、だが。
 旧時代のいくつかの文献に記載があるが、魔法都市文明崩壊後に遭遇した報告は無い。
 誰かの妄想説、設計だけで製作されなかった説、どこかで眠っている説……様々な仮説があるが、どれも裏付けに乏しい。
 交戦報告が無いので、ここに適切な対応を記すことは難しい。万一遭遇した場合、武器を捨ててでも一目散に逃げるべきだろう。巨体であるということは狭い場所には入れないということでもあるので、森や建物の中に入ることができれば取りあえず安全であると考えられる。
 ただし、逃げる際には背後に注意する必要がある。たとえ十分な距離を確保していたとしても、強力な火炎ブレスを浴びてしまったら、瞬時に骨まで炭化するのは確実だ。

 サキとユーナは緊張して後ずさるが、ドラゴン(と思われる魔物)がこちらに気づいた様子はなく、身動きすらしなかった。

サキ「もしかして……死んでるの?」

 液体に漬けられて全く動かないという状況から想像できるのは、防腐処理をした生物標本だった。

ユーナ「ちがうよ。あのドラゴン……から、強い魔力を感じる。間違いなく生きてるよ」
サキ「ってことは、生きたまま標本にされてるってこと!?」
ユーナ「それは……分かんないよ……」

 生きていようが死んでいようが、動かなければ危険は無い。しかし、何かのきっかけで動き出せば、ガラス製の容器など易々と破壊して襲いかかってくるだろう。

サキ「どっちにしろ、ここは撤退よ。お宝どころじゃないわ」

 サキがそう呟いたとたん、そうはさせないとばかりに広間の様子が一変した。
 薄暗く青かった照明が急に白く明るくなり、赤の警告灯があちこちで明滅する。
 フィィィィン……という音が響き、不穏な気配が周囲から迫っているのが感じられた。

ユーナ「え?え?何が起こってるの?」
サキ「分からないけど、敵が迫ってる!構えて!」


 サキとユーナが身構えた途端に、ガシャガシャという音を立てて部屋の脇の通路に潜んでいた魔物たちが一斉に動き出し、姿を現す。

「waaaaaaarinig! waaaaaaarinig! desdestoroy! annnkilkillkillkill intruruuudeeer!!」

 相互にコミュニケーションを取っているのか、甲高く機械的な音が発せられる。
 サキとユーナの前に姿を現した彼らは、二人が見たことがない姿だった。
 金属製の円筒形の体に、細い脚が付いている。中央の眼と思われる部分は無機質なレンズが取り付けられているのみで、眼球は無かった。

 新種の魔物だと、攻略法が分からないのでおいそれと手を出せない。攻撃をためらっていると、組織的な動きをする魔物に、二人は完全に囲まれてしまった。

サキ「な、何よこいつら!?」
ユーナ「ひっ……!」

 サキは剣を構えたまま相手を見据えて、状況を必死に把握しようとするが、突然の事態にユーナはパニックに陥ってしまって、対応できないでいた。
 ユーナには状況の急変が苦手という弱点があり、頭の中が真っ白になって動けなくなってしまうのだ。
 こういう時に素早く判断するのは、サキの役割だ。

サキ(逃げ出す……には敵の動きが早すぎるわ。とにかく足止めしないといけないけど、半端な攻撃じゃ通用しそうにないわね)

 魔物たちはサキとユーナを明確にターゲットと認識しており、続々と集まっている。あれこれ考えている時間は無さそうだ。

サキ「ユーナ!“ファイアーストーム”!」
ユーナ「は、はいっ!」
サキ(……なぜ敬語?大丈夫かしら……?)

 ユーナに強力な火炎魔法を使うように指示すると、サキは単身で魔物たちに突撃する。ユーナの詠唱が完了するまでの時間稼ぎだ。
 ファイアーストームの詠唱に必要な時間は1分弱。相手が直接攻撃だけであれば、剣で受け流すか回避すれば十分なのだが……。

サキ「……っ!」

 魔物の眼が赤く光る。その瞬間、直感で危険を察知したサキは横に飛んで床を転がる。
 赤い光が照射された場所が融解して煙が上がっていた。

“こちらの位置を正確に把握して、遠くから変な赤い光で攻撃してきやがる。ピカッと光ったら、その瞬間には鎧が融けたり大火傷したりするんだ――”

 ベースキャンプで話したハンターの言葉が、サキの頭の中で再生される。

サキ(あんな攻撃、何度もかわせるものじゃないわ。次が発射される前に反撃よ……全力で!)

 サキは反撃することを決めると、柄を握った手から刀身へと魔力を集中させ、周囲の生命エネルギーを集める。この時代に生きる人間は誰でも生命エネルギーを直接コントロールできるので、訓練すればコアと完全に同調していなくても魔法を使うことができる。
 コアと同調するための詠唱に時間を要するユーナの魔法と比べて威力は落ちるが、代わりに詠唱無しで即発動させることが可能だ。


サキ「はああああああああっっ!!!」

 魔物たちが狙いを定めるより速く、高密度の空気を纏った剣を振りぬく。
 サキの確殺剣――風の魔法剣だ!
 集めた生命エネルギーを風圧に変え、敵に叩きつける。
 サキに迫っていた魔物たちは大きく吹き飛ばされ、“赤い光”はことごとく狙いを外して、あらぬ方向の壁や装置に穴を空けた。

サキ(時間稼ぎとしては十分だけど、ダメージは無し、ね)

 風圧と同時に小さな真空の刃をいくつか飛ばしたはずなのだが、ダメージを与えたようには見えなかった。

サキ(…………痛っ……!)

 急激な魔力の消耗に伴って、ひどい頭痛が襲う。生命エネルギーを直接扱うことの代償だ。連続で使えないのはもちろん、しばらくは通常の攻撃もままならない。サキが“確殺剣”と呼んでいるのは、発動したら確実に相手を倒さなければ自分がやられるという意味も込めていた。
 頼みの綱は、ユーナの魔法だけだ。

ユーナ「サキちゃん!準備完了だよ!!」
サキ「オッケー!そのまま、ぶちかまして!」

 そうこうしているうちに、ユーナの詠唱が完了した!


ユーナ「ファイアー!! ストーーーーム!!!」

 ゴオオォォォォォォォッッ!!!

 気合を込めた最後の一声と同時にすさまじい量の炎と熱がユーナの前に出現し、そのまま火炎の嵐と化して魔物たちを飲み込みながら広間を吹き荒れた。

『ファイアーストーム』
 火炎系で最大級の威力を誇る魔法。広範囲に炎と熱を発生させ、風圧を伴って周辺一帯を焼き払う。特に、多数の敵に囲まれた場合に絶大な威力が期待できる。ただし欠点も多く、魔力の消費が激しいこと、火災や爆発を引き起こす可能性があること、狭い場所で使用すると使用者やパーティメンバーを巻き込む危険があること、などが挙げられる。ちなみにユーナがこの魔法を使うと魔力を全て消費してしまい、回復には24時間の休養と十分な睡眠が必要になる。

サキ「ユーナ!今のうちに逃げるわよ!」
ユーナ「う……うん!」

 魔力の消耗で足元がふらついているユーナの手を引いて、サキは魔物たちに背を向けて猛然とダッシュする。
 ファイアーストームの炎と熱、それに風圧なら相当数の魔物を倒したはずだと判断したのだが、残念ながら実際はほとんどダメージを与えていなかった。
 しかし、広間に配置されていた装置類は別だ。

 バチバチッ……ドォォォォン!

 供給されていた魔力が寸断され、あちこちから火花が飛び、煙を噴き上げて爆発する。
 魔物たちは侵入者たちの体温を感知して攻撃する仕組みだったので、そこら中に発生した強烈な熱源でサキとユーナを“見失って”しまったのだった。

 無我夢中で建物から逃げ出した二人は、どこをどう走ったか記憶に無く、“裏口”から魔法都市を脱出し、その場で足を止めた。

サキ「はぁ……はぁ……はぁ……、こ、ここは?」
ユーナ「はぁ……はぁ……魔法……都市を、出たん、だと思う……」

 太陽は今まさに西の山々へ沈もうとしていて、深い藍色の空を不気味に赤く染め上げていた。
 魔法都市の障壁の向こうから時折ズゥゥゥンと低い音が聞こえ、地面から振動が伝わってくる。ユーナの火炎魔法が引き起こした爆発で建物が崩れているのだ。
 森の中は薄暗くなっていて移動するのは危険だが、あの得体の知れない魔物たちに追跡されている可能性が拭えない以上、ここに留まる方がリスクが高い。
 “裏口”の重いドアを閉じると、疲れ切った身体に鞭打って、二人は闇に閉ざされつつある森の中へと分け入った。

 どうにか森を抜けて街道にたどり着いた時には、周囲は完全に暗闇に覆われていた。
 カンテラの灯を頼りに街道を歩いてベースキャンプに入ると、簡易宿泊所に直行。運よく空いていたベッドに倒れ込むと同時に、深い眠りに落ちていった。

 翌朝、疲労回復が十分ではなかったので、出発は取りやめて一日ボーっと過ごすことにした。
 魔法都市の中で発生した爆発はベースキャンプに居たハンター達も気づいていたが、遺跡が崩落すること自体は珍しくないので、大きな話題にはなっていない。
 何人かのハンターにそれっぽく聞き込みをしてみたが、サキとユーナが魔法都市に侵入したことや、中で魔法を使って戦闘を行ったことは全く気付いていないようだった。

 更にその翌朝、十分に休養を取った二人はベースキャンプを後にした。
 色々なことがあったし、命の危険もあったにもかかわらず、お宝は一つも手に入れていない。
 結果だけ見れば“大失敗”なので、帰り道はほとんど会話が無く、街にある彼女たちの家に着いた後も何となく気まずい雰囲気があった。

 そして数日後……“何となく気まずい雰囲気”は、まだ続いていた、というより、悪化の一途をたどっていた。

ユーナ「ねぇ……やっぱり、ギルドに報告した方がよくない?」
サキ「もう、何回蒸し返すつもり!?昨日さんざん話し合って、黙っておこうってことにしたじゃない!」

 遺跡が自然に崩落することは珍しくないのだが、探索の途中で故意に遺跡を壊してしまうのは話が別で、ギルドから厳重に注意される。クエストや依頼でもないのなら弁解の余地も無い。
 加えて報告を怠ったり隠蔽したりしようものなら、トレジャーハンターの資格を剥奪される可能性がある。
 ユーナはそのことを心配しているのだが、サキは「絶対にバレない」と言って譲らなかった。
 例の魔法都市遺跡を攻略していた先遣隊は引き上げが決定していた。ゲートを守護するゴーレムが強すぎて、倒すのは不可能という結論を出したのだ。
 つまり、しばらくの間は誰も魔法都市に出入りすることは無いということであり、サキの「絶対にバレない」発言には十分な根拠があった。

ユーナ「サキちゃんの言ってることは正しいと思うけど……こういう“秘密”を抱えたまま仕事続けるのはつらいし……それに、何か悪いことが起こるような気がする……」
サキ「仕方ないじゃない。トレジャーハンターなんてそんなものよ」
ユーナ「…………」
サキ「だいたい、あの時、ドアを開けて中に入ることにユーナも乗り気だったでしょ。リスクは覚悟してたんじゃないの?」
ユーナ「そ、それは……あの時は気が大きくなってて……」
サキ「まぁとにかく、魔法都市に裏口があるなんて話をギルドが簡単には信じてくれるわけないし、攻略の凍結は決まってて周囲には誰も入れないから、確認を取ることもできないわ。報告するだけ無駄よ」
ユーナ「うん……そうだよね……」

 結局、二人はこの件をギルドに報告しなかった。
 異常な恐怖体験の記憶は、時間が経つにつれて薄れていく。
 しかし、運命の歯車は既に少しだけズレてしまっており、元に戻すことは不可能になっていたのだった。

おしまい

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