亮一君の部屋

「はぁ……」
 学校から帰ってくるなり、カバンを部屋の隅に放り投げ、机に突っ伏してため息をついた。
 こういう時は、誰かと話をしていたいのに、家の中には誰もいない。
 ぼくが寝る時間になるまで、誰も帰ってこないのだ。
「はぁ………」
 部屋の片隅を見つめながら、また、ため息。部屋の中がため息だけでいっぱいになってしまいそうだった。
 明日から、学校に行きたくない。行く気もしない。
 どこか遠くに旅に出て、そのまま失踪したい気分だった。

 ぼくの名前は笹田亮一。丘の向こうの学校に通っている。兄弟はいない。つまり一人っ子。お父さんもお母さんも仕事で忙しくて、夜遅くにしか家に帰ってこない。
 おまけにぼくは他の子と話したり遊んだりするのがあんまり上手じゃないみたいで、友達はほとんど……ううん、全然いない。いじめられることもしょっちゅう。だから、家にいても、学校にいても、ちっとも面白くなかった。

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